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2017年10月意見書―米朝危機と日本


  みなさま

 私は、現在日本では、北朝鮮危機、あるいは米朝危機についての情勢分析ばかりが行なわれ、日本が戦争と平和の危機の前にあると認めることを躊躇し、戦争を防ぐために行動する意欲がなかなか高まらない雰囲気であることを憂慮しています。

 政治の世界では、安倍政府自民党が対北朝鮮政策を衆院選挙の公約のトップにかかげて、国民の信を問おうとしています。安倍政府を批判しようとする野党の側では、政府の政策に対抗して、自分たちの求める方策を対置するところにまで進めていないように見えます。どういう方策が実際に提案できるのか、十分な討論が不足しているのです。

 そこで、このたび、私の意見をまとめてみました。これをお送りしますので、ご検討いただければ幸いです。

 なお、私は、先に『世界』7月号に「北朝鮮危機と平和国家日本の平和外交」を発表し、それを書き直し、インタビューを加えた小さな本、『米朝戦争をふせぐー平和国家日本の責任』(青灯社)をこのたび刊行しました。また日朝国交促進国民協会が9月11日に開催した討論会「北朝鮮危機と日本のなすべきこと」のまとめは『世界』11月号に収録されました。こちらもご覧になっていただければ、幸いです。

 

               2017年10月6日

                             和田 春樹





意見書「米朝危機の中で日本と東北アジアの平和を守ることを願う」

              2017年10月6日   和田 春樹

 

1 北朝鮮のミサイル、ICBMの発射が猛烈なテンポで行われ、第6回の核実験、水爆実験もなされた。これに対して米国、日本、国連の制裁措置がつぎつぎに厳しさを増して打ち出され、軍事的な威嚇の措置も米韓および日本によってとられている。

 しかし、双方の行動が相手側の態度の変化をもたらすことはなく、対立と緊張は言葉の戦争をもともなって、激化の一途をたどっている。米国と北朝鮮のこの対立のゆきつくところに見えるのは米朝の軍事的衝突、米朝戦争しかない。

 すでに英国の王立防衛安全保障研究所では、9月に所員マルコム・チャルマースの報告書「朝鮮における戦争に備える」を発表した。この報告書は、戦争が起きる可能性を二つ指摘している。第一は、北朝鮮が、米国が不意打ち攻撃を準備していると思い込んで、先に攻撃する場合、第二は、北朝鮮のミサイルがグァムやカリフォルニア近くの海にとどく能力をもつにいたったということで、米国が我慢できずに北朝鮮を攻撃する場合である。第二の可能性がずっと現実味をおびている。この報告書は、戦争が朝鮮半島でおこるかのように想定しているが、われわれの見方からすれば、米国の原子力潜水艦、その他艦船からの巡航ミサイルの大量発射により北朝鮮に壊滅的な攻撃が行われるとすれば、瀕死の北朝鮮はのこったミサイルで在日米軍基地、佐世保、岩国、横須賀、沖縄そしてグァムを攻撃するだろう。沖縄へは核攻撃が行われる可能性があり、日本海沿岸にある原発原子炉23基へのミサイル攻撃もありうる。日本も瞬時のうちに米朝戦争にまきこまれる。したがって、米国の軍事行動がとられれば、米日対北朝鮮の戦争になり、自動的に日本は戦場になるのである。この戦争で、北朝鮮、日本、韓国が壊滅的な被害をうけることはまちがいない。

2 だから、米朝の対立が激化するのを目の当たりにしている日本は、この対立緊張が高まって、米朝戦争になるのをなんとしても防がなければならないのである。この前の戦争が終わって、70有余年、日本のまわりで、戦争がおこらなかったわけではない。しかし、日本から米軍が出動し、B29やB52が出撃して、よその国に爆弾を投下することはあっても、日本に爆弾が降ってくることが心配されたことは一度もなかった。いまはじめて、日本は戦争にまきこまれ、平和な生活を失う危険に直面しているのである。

そうであるのに、安倍晋三首相は、トランプ大統領が「自国と同盟国を守ることを強いられれば、われわれは北朝鮮を完全に破壊するほかなくなるだろう」と述べると、翌日同じ国連総会の演壇から、いまや必要なのは、「対話ではなく、圧力」であると宣言し、「全ての選択肢はテーブルの上にある」という米国の立場を一貫して支持すると述べたのである。翌日、河野太郎外相は、コロンビア大学で講演し、北朝鮮と国交をもつ各国に断交するように呼び掛けた。断交は宣戦布告につながる行為である。これでは、日本は米国トランプ政権と一心同体になって、北朝鮮の屈服、降伏をめざして、圧力、制裁を高め続けていくということになる。最後に米国が北朝鮮に軍事的措置をとるということになったら、それに同調して、戦争に突っ込むことになってしまうのである。

安倍内閣の対北朝鮮政策は、日本の平和をあやうくし、日本国民の生活と未来を破壊するものであり、到底容認することはできない。日本国憲法は、その第9条第一項で、国際紛争の解決のために軍事力の行使も、軍事力の威嚇も絶対におこなわない、平和外交によって努力することを政権担当者に命じている。安倍首相の対北朝鮮政策は憲法違反の政策である。

3 安倍政権の見るところでは、現在の危機は、北朝鮮という「ならずもの国家 rogue state」が国際秩序に挑戦し、安保理決議違反の「挑発」をつづけていることからくる。しかし、この見方は正しくない。現在の危機の本質は、多年にわたる米朝対立、米朝紛争にあると考えなければならない。

朝鮮戦争は1953年7月に終わったが、中朝軍と国連軍16か国のあいだに休戦協定が結ばれただけであり、平和は構築されず、軍事的対峙状況がつづいている。その後米軍が韓国に駐留し続ける間、北朝鮮は朝ソ友好協力相互援助条約によって核の傘を提供され、守られていた。70年代には米中和解によって中国にとっての朝鮮戦争が完全に終わることになり、南北関係も変化した。朝鮮半島での軍事的対峙状況は米朝対立に限定されるにいたった。ところで、1990年前後には冷戦の終わり、ソ連社会主義体制の終焉という大変化がおこり、ソ連の核の傘をうしなった北朝鮮は核武装を模索することを決意し、同時に、日朝国交正常化をおこなって、孤立から脱しようとした。しかし、米国は北の核開発、核武装を認めず、そのような志向をもつ北朝鮮と日本との国交正常化を妨害した。これによって米朝関係はあらたな対立関係に入り、25年の曲折をへて、今日の危機的関係にいたったのである。

4 米朝間の対立の本質が以上のようなものであるとすれば、日本が米朝戦争を防ぐために働く余地が十分にあり、当然そうすべきである。

日本と北朝鮮とのあいだには、交渉しなければならない懸案がある。日本は1945年におわった朝鮮植民地支配の清算を朝鮮半島北半分の国家とは70年余はたしていない。2002年に日朝平壌宣言を出し、清算の方式について合意を結ぶにいたったままで、15年間放置してきた。この積年の日本国家の未済の責務をはたすことがまずすべての交渉の前提である。

さらに、1970年代末からおこった拉致事件についての交渉もいまだ終わっていない。北朝鮮を制裁でおいつめるだけでは、拉致問題の解決はえられないのである。

日本と北朝鮮は交渉しなければならない問題をかかえている。だからこそ、米朝の対立をゆるめ、緊張を緩和するために、日本が米朝の間に入って、説得することもできるのである。日朝国交正常化の課題は一挙に問題解決への前進を可能にする道をあたえてくれる。

現実的には、日本は、オバマ大統領の無条件キューバ国交樹立方式にならって、北朝鮮との国交を無条件で樹立し、平壌と東京で、ただちに経済協力問題、拉致問題、核ミサイル問題について交渉を開始するのがよい。

5 さらに2020年の東京オリンピックの開催に対して、日本はそれが無事に開催されるように条件を整える責任を全世界の人々に負っていることに注意を喚起したい。オリンピックを招致した安倍晋三首相、オリンピック・パラリンピック組織委員会会長森喜朗氏、さらにオリンピック開催都市東京の都知事小池百合子氏の三人には、特別重い責任がある。日本国民は、何よりも日本の周辺で戦争がおこり、オリンピックが開催できなくなることがないように、あらゆる努力を払わなければならない。

この意味でも、日本は、米国と一緒になって、緊張を高めるのではなく、米朝戦争を絶対に阻止するように、全力をつくさなくてはならない。対北朝鮮平和外交を!――これこそ現下の最大の課題である。









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